ピルトダウン人(Piltdown Man)は、近代科学史上で最大のいかさまとして知られる、捏造された化石人類である。
1856年にドイツでネアンデルタール人類の化石人骨が発見されて以降、1891年にはインドネシアのジャワ原人、1908年にはネアンデルタール人類に属するラ=シャペル=オ=サン人がフランスのリムーザン地方から発見されるなど、20世紀初頭から人類進化の過程が少しずつ解明されはじめたが、まだ充分に資料や知識が蓄積されていたわけではなかった。
そのような時代の1909年から11年にかけて、弁護士でありアマチュア考古学者でもあったイギリス人、チャールズ・ドーソン(Charles Dawson)によってピルトダウンから発見された頭頂骨と側頭骨が、大英博物館(ロンドン自然史博物館)のアーサー・スミス・ウッドワード卿の研究室にもたらされた。ウッドワード卿は1911年に自ら現地に赴いてドーソンと共同で発掘を行なっているが、この時にも後頭骨や下顎骨の一部、石器のほか年代推定の根拠となる動物化石を発見し、その後も犬歯などの断片的な化石が発見され、それらを研究したウッドワード卿は発見された化石人骨に Eoanthropus dawsoni (エオアントロプス・ドーソニ)の学名を与えて発表した。
その骨、その脳頭骨は現生人類を思わせるほど丸く膨らんで大きく、対照的に下顎骨は非常に原始的で類人猿のようであったが、臼歯の咬合面の磨耗は人類特有の咀嚼によって生じたものであった。発達した脳と原始的な顎の特徴、伴出した動物化石等から、ウッドワード卿はピルトダウン人を更新世初期に由来する現生人類の最古の祖先と見なした。
しかし、1950年、フッ素法によりピルトダウン人頭骨の検査が行なわれ、その骨が1,500年以内のもので、人類の祖先の化石とは言いがたいとの結果が導き出された。 加えて1953年には、オークリー率いるオックスフォード大学の研究者らによるいっそう精密な年代測定と調査・分析が行われ、その結果、下顎骨はオランウータンのものであり、臼歯の咬面は人類のそれに似せて整形されていたこと、古く見えるよう薬品と思われるものにより石器などとともに着色されていたこと、伴出した獣骨は他の地域の産であることなどが突き止められた。 類人猿の下顎骨は人骨とは決して接合できないものであるが、捏造犯は接合部分を巧妙に除去して矛盾を隠し、着色を施して偽装したとのことである。
40年近くにわたって古人類学界を混乱させたピルトダウン人は捏造された化石であると断定され、事件は一応の決着を見た。 ただし、最初にドーソンからもたらされた頭頂骨と側頭骨は、後期更新世に由来する化石の現生人類(クロマニョン人の類)と考えられている。
サイズ:22.9×15.9×18.4cm
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